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記者発表

抗がん活性の強い樹状細胞へがん抗原ペプチドを選択的に送達させる新規抗がんワクチンの開発

発表日時 亚博yabo官网登录2年3月16日(月)10:00~10:20
場所 和歌山県立医科大学 生涯研修センター研修室(図書館棟 3階)
発表者 外科学第2講座  学内助教 水本有紀
外科学第2講座  准教授 勝田将裕
先端医学研究所 生体調節機構研究部  教授 改正恒康

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発表内容

概要

がんに対する免疫療法が注目され、がん抗原ペプチドや免疫チェックポイント阻害剤が使用されているものの未だその効果は十分とは言えない。今回我々は、がんに対する細胞傷害性T細胞(キラーT細胞)応答を誘導する活性が強い樹状細胞サブセット(ケモカイン受容体XCR1を発現する樹状細胞、XCR1陽性樹状細胞)へがん抗原ペプチドを選択的に送達できる新規抗がんワクチンを作成し、その効果をマウスの実験で検討した。その結果、このワクチンは、通常のがん抗原ペプチドよりも強力な抗がん効果を示すばかりでなく、免疫チェックポイント阻害剤(抗PD-1抗体)との併用効果も持つことが明かになった。XCR1陽性樹状細胞はヒトにも存在することから、今後ヒトXCL1を介しヒトXCR1陽性樹状細胞に送達させることにより、より有効ながん免疫療法が開発されることが期待される。

背景

がん治療として、外科的療法、化学療法(抗がん剤)、放射線療法に加えて、体内の免疫応答を活性化する免疫療法の重要性が注目されてきている。がんに対する免疫応答を活性化するためには、アクセルを踏みこむ方法か、あるいはブレーキを解除する方法が考えられる。近年注目されている免疫チェックポイント阻害剤(*1)は、ブレーキを解除することによってがんに対するT細胞応答を活性化する方法であり、進行がんにも有効であるなど画期的な作用を示すものの、多くのがん種では依然奏効率は20%未満にとどまり、有効性を向上するさらなる治療戦略の開発が望まれている。一方、アクセルを踏み込む方法として、がんに優位に発現するタンパク由来の抗原ペプチド、いわゆるがん抗原ペプチドの投与が数十年来試みられているが、未だその効果は十分とは言い難い。

がん細胞を攻撃するT細胞の活性化には、T細胞に抗原を提示する細胞、すなわち抗原提示細胞が重要な役割を果たす。抗原提示細胞として、樹状細胞やマクロファージが知られているが、これらの細胞は均一な集団ではなく、機能的特性が異なる様々なサブセットから構成されること、特に、ケモカイン受容体XCR1を発現する樹状細胞サブセット(XCR1陽性樹状細胞)が、キラーT細胞活性を誘導する活性が強く、ウイルスやがんに対する防御免疫のカギを握る樹状細胞サブセットであることがわかってきた。

我々は、従来のペプチドワクチンでは、多様な抗原提示細胞に非特異的に送達されるために十分な抗がん効果が得られなかったのではないか、ペプチドワクチンを選択的にXCR1陽性樹状細胞に送達することができれば、効率的にキラーT細胞を誘導し強力な抗がん効果が得られるのではないかと考えた。そこで、XCR1のリガンド、すなわちXCR1と特異的に結合するケモカインXCL1とがん抗原ペプチドを連結させたがん抗原ペプチド連結ワクチンを作成し、その抗がん効果を、免疫チェックポイント阻害剤との併用効果を含めてマウスモデルで検討した。

研究手法?結果

1. XCL1抗原ペプチド連結ワクチンの作成とそのXCR1陽性樹状細胞への送達

図1がん抗原としては、MHC クラスI(*2)と共に提示されることが知られている、卵白アルブミン(Ovalbumin、OVA)由来のペプチド(OT-I抗原ペプチド)を使用した。そして、このOT-I抗原ペプチドとマウスXCL1を連結させたタンパク質をXCL1抗原ペプチド連結ワクチンとして作成した。このXCL1抗原ペプチド連結ワクチンを樹状細胞に添加したところ、MHCクラスIとOT-I抗原ペプチドの複合体が、XCR1陽性樹状細胞の膜面上には提示されたが、XCR1陰性樹状細胞の膜面上には提示されなかった(図1)。このことから、XCL1抗原ペプチド連結ワクチンは、XCR1陽性樹状細胞に選択的に送達され、抗原提示されることが示された。

2.XCL1抗原ペプチド連結ワクチンによる効率的な抗原特異的キラーT細胞の誘導

次に、XCL1抗原ペプチド連結ワクチンによる抗原特異的キラーT細胞誘導活性を検討した。野生型マウスに、抗原ペプチド、抗原タンパク、XCL1抗原ペプチド連結ワクチンを免疫賦活剤(二本鎖RNA)と共に投与し、7日後に免疫したマウスから脾臓細胞を採取し、抗原特異的キラーT細胞の活性化をインターフェロンガンマ(*3)の産生細胞の割合により評価した。抗原ペプチドは抗原タンパク、XCL1抗原ペプチド連結ワクチンの100倍量(モル数による)を投与したが、抗原特異的キラーT細胞の活性化は全く認められなかった。また、抗原タンパク、XCL1抗原ペプチド連結ワクチンは同量を投与したが、抗原タンパクと比較して、XCL1抗原ペプチド連結ワクチンの投与により、著明な抗原特異的キラーT細胞の活性化が誘導された(図2-a)。また、このXCL1抗原ペプチド連結ワクチンによる抗原特異的キラーT細胞の活性化は、XCR1を欠損するマウスでは著明に減弱していた(図2-b)。以上の結果から、XCL1抗原ペプチド連結ワクチンは、XCR1を介してXCR1陽性樹状細胞に送達された後、効率的な抗原特異的キラーT細胞の活性化を誘導することが示された。

図2-a図2-b

3.XCL1抗原ペプチド連結ワクチンの抗がん効果

図3次に、XCL1抗原ペプチド連結ワクチンが抗がん効果を発揮するかどうかをマウスがんモデルで検討した。がん細胞としては、OVAを発現するマウス悪性黒色腫(メラノーマ)細胞株(B16-OVA)を使用した。
B16-OVAを接種した後、7日目と14日目に、抗原ペプチド、抗原タンパクあるいはXCL1抗原ペプチド連結ワクチン(図Xと同じ量)を免疫賦活剤(二本鎖RNA)と共に皮下投与し、がんの大きさを測定した。その結果、XCL1抗原ペプチド連結ワクチンを投与した場合のみ、抗がん効果(治療的効果)が認められた(図3)。

4. XCL1抗原ペプチド連結ワクチンの免疫チェックポイント阻害剤との併用効果

図4さらに、XCL1抗原ペプチド連結ワクチンの免疫チェックポイント阻害剤との併用効果を検討した。
 B16-OVAを接種した後、7日目と14日目にXCL1抗原ペプチド連結ワクチンを免疫賦活剤(二本鎖RNA)と共に皮下投与した。免疫チェックポイント阻害剤としては抗PD-1抗体を使用し、14、17、21日目に投与した。このXCL1抗原ペプチド連結ワクチンと免疫チェックポイント阻害剤の双方を投与した群(併用投与群)と、未投与群、免疫チェックポイント阻害剤単独投与群、XCL1抗原ペプチド連結ワクチン単独投与群との間でがんの大きさについて比較検討を行った。その結果、未投与群、免疫チェックポイント阻害剤単独投与群、XCL1抗原ペプチド連結ワクチン単独投与群に比較して、併用投与群においてがんの増殖が著明に抑制された(図4)。

波及効果

図5以上のように、がん抗原ペプチドをケモカインXCL1と連結させること(XCL1抗原ペプチド連結ワクチン)により、生体内でがん抗原ペプチドが XCR1陽性樹状細胞へ送達され、強力な抗原特異的キラーT細胞活性化の誘導と共に抗がん効果の増強が認められた。またXCL1抗原ペプチド連結ワクチンと抗PD-1抗体を併用投与することで、抗がん効果を相乗的に高めることも示された(図5)。

XCR1陽性樹状細胞はヒトにも存在し、キラーT細胞の誘導、免疫チェックポイント阻害剤の抗がん作用にも関与していることがわかってきている。今後様々ながん抗原を、ヒトXCL1を介してヒトXCR1陽性樹状細胞へ送達することにより、有望ながん免疫療法の開発が進むことが期待される。

本研究は、和歌山県立医科大学外科学第2講座(山上裕機教授)と和歌山県立医科大学先端医学研究所 生体調節機構研究部(改正恒康教授)の共同研究であり、研究成果は2020年2月18日に、国際誌British Journal of Cancer(電子版)に掲載された。

論文情報

<タイトル>
Anticancer effects of chemokine-directed antigen delivery to a cross-presenting dendritic cell subset with immune checkpoint blockade

<著者名>
Yuki Mizumoto, Hirosaki Hemmi, Masahiro Katsuda, Motoki Miyazawa, Yuji Kitahata, Atsushi Miyamoto, Mikihito Nakamori, Toshiyasu Ojima, Kenji Matsuda, Masaki Nakamura, Keiji Hayata, Yuri Fukuda-Ohta, Masanaka Sugiyama, Tomokazu Ohta, Takashi Orimo, Soichiro Okura, Izumi Sasaki, Koji Tamada, Hiroki Yamaue, Tsuneyasu Kaisho.

<雑誌>
British Journal of Cancer https://doi.org/10.1038/s41416-020-0757-2

用語解説

*1 免疫チェックポイント阻害剤
免疫機構は適度な応答を維持するためにブレーキをかけるシステムが機能している。このシステムに関わるのが免疫チェックポイント分子と呼ばれる分子群であり、T細胞の膜タンパクであるPD-1やCTLA-4などが知られている。PD-1、CTLA-4はそれぞれ、抗原提示細胞上のPD-L1/PD-L2、CD80/CD86と結合し、T細胞応答にブレーキをかける。がん細胞は、時にPD-L1/PD-L2やCD80/CD86を発現することにより、T細胞応答にブレーキをかけ、免疫機構からの攻撃を回避しようとしている。免疫チェックポイント阻害剤としては、抗PD-1抗体や抗CTLA-4抗体などが知られ、免疫チェックポイント分子の機能を阻害することにより、抗がん免疫を増強させている。

*2 MHCクラスI(Major histocompatibility complex(主要組織適合遺伝子複合体)クラスI)
抗原ペプチドをキラーT細胞へ提示するために必要な膜タンパク群の総称である。抗原提示細胞は、この抗原ペプチドとMHCクラスIの複合体を提示することにより、キラーT細胞の活性化を誘導する。

*3 インターフェロンγ
キラーT細胞やナチュラルキラー細胞から産生されるサイトカインであり、キラーT細胞応答に重要な役割を果たす。キラーT細胞の活性化の指標として使用される。